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2011/08/26

Z-01-5 福島市在住・マンション管理士の体験談5

2011年08月26日寄稿
福島市在住マンション管理士
(福島の重くそして遠い課題)
近年地方都市においてもマンション生活が身近に根付いて来ており、働き盛り世代や若者には圧倒的な支持を受けている点は大都市とそう変わりません。

従来地方でのマンションは、金満とまでは行かないまでも高額所得者層の持ち物であるという認識がありましたが、不動産バブル期を終えてそうした年代層は高齢にさしかかり、今後マンション管理の担い手の世代交代をより推し進めなくてはなりません。

一方、たとえ微量でも放射線を浴び続けることは、若年世代、特に乳幼児には深刻な影響を及ぼします。体内被曝の不安を深刻に受け止める親達の中には、子供だけでも、そして母親も影響のない遠い地域へ転出させる動きが広がり、福島市内から明らかに子供の姿が減っている悲しい状況です。放射能が怖いからもう住めない、借り手もいないから売ってしまいたいが買い手がない、こどもを守らなくてはならないからとにかく福島から逃げ出す、こんな周辺状況なのです。これは、役員の成り手不足でこの先の管理組合運営に支障が生じるなどという生易しいことではなく、マンション住民が享受する財産価値が一挙に失われて行く非常事態です。大震災はありえない、否あってはならない映画のような天災でしたが、最後の備えがなかった原発事故という人災のために、延々と営まれて来た自然豊かな福島の生活が奪われ、営々と築き上げられて来た大切な資産があっという間に失われて行くとしたら、これは正夢とは思えません。

原発の水素爆発から数ヶ月経って、福島市内では学校・公園等の表土の入れ替え、高圧洗浄機を使った公共建物や道路の側溝の洗浄を自治体主導で行う動きも出てきており、実施後の放射線数値は半分以下に下がるようです。町全体で本格的に除洗に取り組めば、何とかなりそうな雰囲気も伝えられます。しかし、いわゆるホットスポットとして数値が特に高い地域の指定が進み、また原発からの放射能漏出も依然止むことなく続き、今まで把握されていなかった、或いは目を反らしていた厳しい現実が身近にあることが次々と明らかにされて来ており、福島がこの先一体どうなるのか、市民がどう行動したらよいのか、誰にも明確に答えられません。避難者の受け入れや震災後の建物復旧やらで慌ただしく動いていた間は、ジワジワと迫り来る住環境の崩壊や、放射能汚染に嫌気をさして有力企業が逃げ出すといった地元経済の決定的なストップ状況にまではなかなか思い至りませんでした。もはや、福島は広島以来の、広島を超える、人類が原子力利用に失敗した悲劇の代名詞となることは間違いありません。TV等では賠償金の話題が盛んに取り上げられたりしていますが、私達が望むことは、農作物や酪農、水産等で培ってきた生業の地を返してほしい、未来を託すべき子ども が発ガンにつながるような汚染状況を一刻も早く無くしてほしいということに尽きます。

毎日、新聞紙上やTVでこうした話題に明け暮れ、近所から若い母親とこどもの姿が少なくなり、みんなの口端に最初に上ることが誰々がいなくなったなんてことですから、ますます深刻になって行く福島の閉塞状況に向き合うことにも厭いて絶望感に陥ってしまいます。気の利いた人の親なら、わが母子を汚染のない所へ逃がすことを第一に考えるものです。当マンションでも、小中学校の夏休み以後明らかに、若い母親と小中学生の子どもの姿が減っています。福島は大丈夫だから、マンションに住むのは不安がないから、もう帰ってきてもいいよ、と仕事のために残った父親は早く言いたいんです。そのためにできることは何でしょう、個人の力でどこまでのことができるのでしょう。

現在、当マンションでは放射線測定器を購入し、管理組合が共用部分の放射線量を毎日測定して、住民向けに掲示しています。発注してから納品まで2ヶ月余りもかかった測定器は10万円強のいわゆる簡易測定器ですが、自治体が使用しているものと同じ、精度に信頼が置ける日本製で少数第3位まで測定可能なものです。集合玄関、ホ-ル、共用通路、ゴミ置場、駐輪場、プレイロット、歩道上等、当マンションで生活して行く上で毎日利用する場所が測定対象となります。勿論、ル-ル作りをした上、各居住者にも自室の測定のために貸出をしています。マンション周辺の戸外は、新聞紙上等で発表されている数値と大差ない環境ですが、一歩マンション内に入れば、コンクリ-ト効果で放射線量は 0.1μsv/h前後と大変低い数値に止まります。私達の目指すところは当マンションが安全に暮らし続ける環境か否かを数値として確認し、その情報を住民に提供することにあります。一歩外へ出ればマスクをしたり帽子を被って急な雨に備える必要のある放射線レベルにある福島の現実ですが、幸い自室を含めコンクリート住宅内部はこれなら何とか住み続けられると思える範囲です。

今後、否が応でも福島のマンション管理のあり方が変わる、つまり放射線対策にいかに取り組むかが管理組合の大きなテ-マになって行くでしょう。

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