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2011/11/30

X-01 工事担当者の体験談

取材地:福島県郡山市
取材日:2011年10月13日

――早速ですが、3月11日の地震の時はどちらにいらっしゃったんですか?
私はその時本社にいまして、たまたまその時間帯は自分の机に座ってたんですよ。

――揺れの体感や会社内の混乱はいかがでしたでしょうか?
事務所の方はですね、カタログ棚が倒れました。カタログをずーっと並べておく棚の中身が全部飛び出しました。書類関係が全部崩れ、机の上のパソコンも落下ですね。書類を積んでいて整理が悪かったものですから、バッと積んでたやつがもろにボソっと。各机の上が大体そうなりましたね。

建物は4階建てですが私共は2階に工事部としてのスペースがありまして、感覚的にこれは建物が崩れるかもしれないと思いましたね。倒壊する可能性があるという感覚でした。

――その時受け持ってらっしゃった工事現場の被害はありましたか?
その時私が担当してたのは規模的には大きくないんですが、老人ホームの内部ホールの中に内部足場を組みまして天井等の塗装関係の改修工事をしていました。張り出した足場を組んで、塗装作業中でした。頭でっかちな足場を組んでいたものですから、もしかすると内部で倒れたかもしれないと思いまして、即電話しました。地震直後は電話も繋がったので職長の方に「どうだ!?」と。

たまたま足場は倒れなかったんですけども、やはり周辺のサッシやガラス、パーテーション、下がり壁がですね、それが破損、場合によっては落下。そういう事がその建物でありました。実際作業中だったんです。安全帯をしていたし、足場が倒れなかったものですから人的な被害もありませんでした。

――ご自宅は大丈夫でしたか?
自宅の方は夜に帰ってみた限りでは特に被害という被害は無かったですね。木造2階建てですけども、棚の中が多少飛び出したぐらいはあったようですが、外壁とか外回り、根周り関係での被害も無かったです。

――その他の現場で地震の直後に苦労された事はありましたか?
地震が15時ちょっと前にあって、手をかけていた現場の安全確認と被害等の確認をした後は電話も不通、停電、その他交通網がズタズタになってきまして、徐々に情報が入ってきましたよね。それで最低限の整理をして現場は解散です。「帰れ」という指示をして。逆にこっちから行こうとしたんですけど、もう行けない状態だったんですよ。だからその辺はギリギリ電話で連絡取り合っていたのですが、当日はそれでバンザイですね。自分達も帰りました。

――地震の翌日からは現場は止めたんですか?
そうですね、被害の確認をしなければということで。目に見えるばかりじゃなくて隠蔽部分やその辺の関係、ガス等ですね、有り得なくもないのでその辺を確認するのに。翌日の12日からは社内的に、工事部の人間を招集しまして手分けして、まず現在動いている現場ですね、それから以前担当した現場、もしくは過去何年来かリストアップしまして全員で手分けしてその被害状況の把握ですね。翌日から社長筆頭に工事部が班割しまして現場回りをしましたね。

――安全の確認とか、被害の確認とかいう時に設計事務所さんにも一緒に動いてもらえましたか?
あの時点では一番動きづらかったというかね、まずガソリンの問題、足の問題ですね。足と交通網がズタズタの中で連絡は取れるだけは取って。各設計事務所さん、建物を担当していただいた設計士さんとも連絡を取り合ってましたが、中々一緒に動くということが出来なかったものですから。まずは自分らの現場の状態を確認せい、という指示の下で動きましたから中々一緒にというのは出来なかったですね。連絡は出来るだけ取るようにはしたんですけど。

――逆にお客さんから建物の点検の要請というのはありましたか?
要請が出始めたのは1週間くらい後からですね。私共は今話した形で翌日から動き出したものですから。各担当した現場は何十年前じゃないですからお客さんも担当の方もお互いのことを覚えているわけでね。ですから即動いて向こうのオーナーもしくは管理されている方にお会いして喜んでいただいたわけなんですよ。要するに即動いたということですね。

当然、被害状況ではすぐ手を打たないと安全的に危ない部分や、多少時間をいただく部分、例えばボードの割れなんていうのは直接的な危険じゃないものですから、さっき言った下がり壁なんかが遊んでいて落下する可能性があるものについては即人間を確保しまして翌日から動かすようにしました。

1軒あったのはですね、集合住宅の屋上の高架水槽のタンクが完全に倒れまして、建物と建物の間に寄り掛かっている状態にバーンと倒れまして、余震がくれば落下してもおかしくない状況の物も中にはあったんですよ。もう切断して落とすしか方法は無いわけですね。そういう現場も中にはありました。

それから、あれは3日ぐらい後だったかな、何をしなくちゃいけないとか想像、イメージはできるわけで、クレーン手配、職人さん、鳶さんの手配、切断業も手配し、それをまとめてすぐドンと工事しました。そういう可能性のある所は即行動しました。自分らも出来る範囲の中でですね。

――応急的な危険回避というのが終わった後、復旧工事が始まるまでどの辺りが大変でしたか?
まず資材の検討が付かない状態になりましたね。例えばガラスの破損ですと、まだ寒いですから当然外壁もしくはサッシ関係が壊れますと、外気とツーツーで寒いわけですよ。ガラスが手に入らない状態がすぐ発生しまして。持っている在庫品だけではアウトになってきましたね。そういう時は別な代替品でとりあえず塞ぐ、それで暖を取れるような状態にする。

それから屋根でいえば瓦とかいろいろ破損した部分については雨漏れ防止の処置ですか。簡単な養生。それから落下する恐れのある部分は逆に囲うとか。第三者に被害が出ないようにという事ですね。外部足場組んで養生シート張り付けたり、足場で囲ったり。自分の所の資材でできる所は良かったんですが、外的な資材が欲しくてもすぐ不足になりました。ベニヤ、ブルーシートもそうですし、各養生シート類関係、袋、極端に言えば土嚢袋から取り合いましたね。

皆一気に手配をかけたんですよ。遅ければ今在庫切れでいつ入ってくるか分からない。それは多分流通の問題だったと思うんですが、そういうことはありました。最初の頃は資材を取り合ったという状況ですかね。

――4月に入って早いお客さんは建物直したいという話が出てきた中、今の建材不足、職人さん不足と人件費の高騰でどのような状況だったのでしょうか?
応急処置をしている時の二ヶ月ぐらいの間は、人件費の高騰と職人不足での取り合いは確かにありましたけども、その時点では行動することが大事であって、それに対する費用的なものは後追いでしたね。徐々に落ち着きだして、工事量が多くなってきて、実質的に1人、2人の世界で収まらないくらいになってくる。建屋もあって被害状況が酷く修繕に一、二ヶ月くらい掛かる。それではじめて資材不足から金額的な話が出始めてきたような感じでしたね。

非常に普段の単価では考えられないような値段が出てきましたね。単純に、例えばクロスの修理で、その場合は下地のボードから絡む話ですね、クラック等があってボード自体が割れて、ボード張り替えてクロス張り替えるという応急処置。見積上ではやっぱり2倍ぐらいの数字、例えばクロスで言えば下地別にして張るだけで黙って1000円。材工にして1500~1600円というのが平気で出てくるようになりましたね。

あとは同じ物が無いということで、代替品にしてもクロス自体が不足していて、物がある所にはあるのかもしれないですがうまく流れないというんですかね。しばらくの間そういう状況が続きましたね。

――見積もりの要請等も沢山あったんじゃないかと思うんですけども、その辺りはどうでしたか?
当社としてのまず第一優先は自分らが手掛けた現場ですね。修繕、改修工事、これは当然優先的にやらせていただくということで動きました。その他にいろいろご紹介をいただいて、声掛けていただいてお伺いして見積もり、もしくは単純にネットかなんかで調べていただいた上で電話いただいたりした場合もございます。

当然すぐというわけには、もちろん人が不足だったので、こちらの職員自体も不足だったんですけども。いろんな営業的な絡みというのでしょうか、例えばトップの方に直にお話があったり、工事部長の方にお話があったり、担当者に直接話があったりというのがありまして、そこの所は毎日所内で朝ミーティングした中で調整をして、上司の指示を仰って動くと。

全員7時30分から、まあ全員といっても現場に行っている人間は別ですけども、現場担当以外の市内にいる人間は召集、工事屋ばかりじゃなくて、営業、事務問わず全員集合の下で社長筆頭にその日の行動を逐次報告、もしくは指示を受けるというような状況でしたね。

――その状況でも競争入札、見積もり合わせに参加して欲しいというような要請はあったのでしょうか?
それはありました。この時期に?、と思わせることでしたが、やっぱり元々予定されてた日程、工程というんですか、それはそれでストップしてない案件はそれなりの形で当然動かなくちゃいけないことで、それとは別に震災は震災としてですね、当然そういう要請もありましたね。

状況が状況ですので、その入札自体を実施するという事もだいぶ少なかったです。中止したり延期したりということもあったわけなんですが中にはやっぱり予定通りというのもありましたから。その日程がまたなんか、もちろん数は少なくなりますが、やっぱり日に日に。もうあの状態ですので。

――集合住宅、マンション絡みでどのような工事をやってらっしゃいますか?
集合住宅の場合はまずメインには玄関関係の出入りに支障があるといいますか、歪み、要するにドアが開閉が出来ないとか、外壁が完全に割れて窓が開閉出来ないとか、こういうところの修繕として応急的に直さなくちゃ生活に支障があるという状況の所は結構ありますね。

製品は取替えがその時点ではまだ出来ないものですから、外的な力で無理くり開閉出来るようにしたりとか、サッシも無理くり相当な調整をもって掛けられるようにして防犯的な性能を確保したりですね。ガラスについては製品が取替えられる物は取り替えられるんですけどダメな場合は応急的に板を入れたりということで。

まだ寒かった時期でもありますし暖を取るとか防犯的な物を優先して施したと。それが一段落して、次は本格的な修繕。壁の破損した部分については状況によっては撤去して打設し直したり、部分的にコンクリート、外壁を撤去し打ち直しし仕上げて直した、6階建てのうち4階ぐらいまでそういうことのあるお部屋の一部を施工したこともございます。

――設備関係ではどのような工事がありましたか?
一番多かったのは給水関係の破損でしょうか。受水タンクの高置水槽が破損したり、それから給水管が途中で切断、破損したりして徐々に水が使えないということが直後には発生しましたが、それはもう設備業者を中心に応急処置で復旧。タンクがもし破損した場合は直結ということを考慮してすぐ手を打ったのも数件はございますね。破損状況によってすぐその水が使える、断水が長くならないように処置を施しましたね。

――仙台の方はエレベーターシャフトの上の方、塔屋が折れたりレールが曲がったり未だに直ってない所があるみたいですね。
でしょうね。そういう被害、建物、エレベーターホール、エレベーターのシャフトなんかやられるとそうなりますよね。高層マンションなんかは特に非常に生活に支障をきたしてしまいますよね。

――余震が最初の頃は特にあったと思うんですけれども、現場で気をつけるようにしていたこと、今もされていること等ありますか?
その状況によって、まあ余震で済めば一番いいんですけど、同等程度の地震がこないとも限らないと頭の隅にあるので、どんな時にどういう揺れがきたとしても人的な被害が極力無いようにとは考えています。一般的には安全帯の使用とか固定、壁つなぎ等のトラスの固定、そういうことは特に外部足場の場合は指示を徹底しましたね。

要するに一人一人の職人に言っているのはどんな状況の時でもここで揺れだしたらどうなるかをイメージしろと。具体的に余震がきた場合でも自分が落下しない、物の落下はこれはしょうがない時もあるでしょうけども、最小限の被害になるようにイメージするよう頭の隅に入れておけよとは指示してますね。

――今回の放射能関係なんですけれども、職人さんあとはお客さんから放射能絡みで寄せられる意見等はありましたか?
私共は本来福島ですし、お客様の都合で当然浜の原発に近いところのお仕事もいただいてますし、私自身もその直後南相馬、原町に改修で出向きました。放射線が高いうんぬんは知識としてはありますし情報としては入りますが、だから行かないとかあそこは遠慮申し上げるということは特に社内では無かったと思いますよ。

職人さんもそんなに若いやつがいっぱいいるわけでもないので年齢にもよると思うのですが、逆にそのご依頼があった場合、私共の知っている職人さんというのは比較的仲間意識が強いと言いますか、容易にですね私共の要請に答えていただきました。原町で閉鎖区域の1km手前とかそういうとこも平気で行ったり来たりはしましたね。特に拒否されたということも私の記憶に無いですし、自分自身ももちろんそうですけど会社も職人さんもそうだと思いますよ。

――今回の大きい地震を経験された事で工事の技術者としての意識や使命感の変化等何か感じてることはありますか?
実際建物の被害を見ますと早急に中の工事が出来るものなのかどうか、外壁のクラック等を見てみましても耐震性能というんですか、これは20年、30年前の建物と最近の建物とは雲泥の差があるのは当たり前の事で、設計的にもそうなってる訳です。まあ、崩壊するまでは無いにしてもですね、そういうところは私ら若い時に言われたのはコンクリートは割れるものだと、そういう教わり方をしたんですけど、お客さんにとってみればコンクリートは割れない物だという意識はあるでしょう。

基本的に構造な問題の有る無しはその都度ご説明して、お化粧的なところはしょうがないところもありますよ、みたいな言い方で。逃げてるというわけではないんですがそう説明をさせていただいてるんです。

やっぱり今まで見えなかった所がもろに見えたりとかしますよね。そういう所もあるのでより確実な施工というのがコンクリートにしてみればそういう打ち込み、ジャンカの無いコンクリートというのを、こういう状態になってくるともろに見えてくるので失礼なことだろうというのは改めて感じたとこですかね。

――私はスリットを入れられる所に適切に入れていくというのが大事なんだなぁと今回は思いました。
建物は正直なんでしょうね。入るだろうという所に入ってくるんですよ。ですから、スリットがあるべき所に無いとそこが破損する時は酷いですよね。

――全国の現場の方に伝えたい事はありますか?
私の場合は集合住宅、こういうマンション関係の対応が比較的多かったもので各お客様に出来るだけの説明をするんですが、非常に不安感を持たれているんですね。どうしてもちょっとしたクラックが構造的なクラックなのか化粧的なクラックなのか区別がつかず不安視されてちょっとしたクラックでこの建物は大丈夫なのかと、そういうご質問は多いですね。

分かる限りで説明をしているつもりなんですけども全てが一色単なんですね。クラックは建物の全体、屋階にまでいっちゃてるんで不安だとか、やっぱり技術屋として見る目とお客様が見る目とは多少違いがあるものですから、その辺を技術的なサポートをしながらアドバイスを加えてご説明する。そういうことをやるべきなんじゃないだろうかと思いました。非常に不安がられる方が多いです。

――大変貴重なお話をありがとうございました。

(聞き手:鈴木裕人 マンションサポート福島代表・マンション管理士)

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