当サイトは東日本大震災を被災したマンション管理組合関係者(マンション居住者、管理組合理事長・役員、管理会社担当者、管理員、工事担当者、設計事務所、マンション管理士等)の体験談を紹介しています。
皆さんのマンションにおける、今後の大規模災害対策の一助となれば幸いです。

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2011/11/14

C-01 福島県郡山市・管理組合理事長の体験談

取材地:福島県郡山市
取材日:2011年10月13日

――この度の被害についてお見舞い申し上げます。こちらは数少ない被災した自主管理のマンションということで、地震の後どのようなご苦労があったのか、お話をお聞かせいただきたく思っております。
実は私、30年前から地震が来る事は知っていたんです。今年3月にあるという事ではないですよ。前に私、ダイナマイトで山を崩す仕事をしていたんです。その時一番先に地質調査をするんですよ。ある時、地質学の先生が、女川からの帰りで東京に帰る前に寄りたい、と宮城県から電話をかけてきたんです。その時、女川で地質検査をした帰りなんだ、あそこに必ず原発ができるから、と言われました。

それで私もダイナマイトで山を崩すのに調査してもらったりで、懇意にしていたんです。その時地震の話がたまたま出まして、あの人たちの近い将来というのは20年、30年後なんですけど、近い将来必ず大きな地震が来る、と言うんです。何でですか?、って聞いたら、房総半島辺りがいわゆる弓なりになって引っ張られているから、それがバーンと跳ね返るとその時に半端じゃない地震がくると思われますよと。それでこの間の地震が、あっこれだな、と思ったんです。

――3月11日の地震の時はマンションの中にいらっしゃったんですか?
(ここから女性の副理事長も参加)
(理事長) 居ました。

(副理事長) 私は帰る途中で車に乗ってたんです。地震だっていうのでドアを開けて出て、揺れが長いね、って言ってたんですよ。帰ってきたら前の家の塀がみんな落ちてたんですよね。それからマンションの屋上の排水、上のパイプが外れちゃったんです。水が滝のように出て下の方で霧みたいになって、すごいもう吹雪みたいでしたよ。全部入っていたのでしばらく出ていましたね。

(理事長) やられたのは、屋上のパイプ。それから、高置水槽の基礎ですね。

――鉄骨でできているのにですか?
(理事長) そうです鉄骨です。11日の地震では、水道とガスがダメになりました。夕方からガスが漏れたのか臭かったんですけど、その臭いがあちこち増えてきたんです。それでガス会社に電話したら、検査してみます、と言われました。

――一ヶ所だけではなかったんですか?
(理事長) そうです、次の日も臭くて。そしたらいきなりガス会社で来て元栓を全部閉めていったんですよ。だから全室ガスがストップしたんです。

(副理事長) 大きいのは、ガスとお水でした。お水はうちの場合はマンションの造りが昔風だから、地下タンクに溜めるんですね、それがあったから、皆さんにバケツを持ってきてもらって、そこから引いて、私達毎日玄関先で午前と午後二時間くらいずつお水配り。だから、よその公園に汲みに行かなくてすみました。

(理事長) 30tの地下タンクがあるのは知っていたんです。それで管理人に、水中ポンプある?って聞いたら、あります、って言うんですね。だから、すぐに出るように対策して、と言ったんです。ただ、どんどん水が減っていくからいつまで持つか心配したんです。

(副理事長) 中には洗濯すると言う人もいましたから、「皆さんが使いすぎるとそれこそ水汲みに行っていただくようになりますから」と言ったんです。

(理事長) ああいう時に人柄がわかりますね。バケツ1つ2つ程度にしてくださいよ、と言っても、台車を持ってきて、バケツを3つも4つも積んで、その他に大きいビニール袋を持ってきて。この人こういう事をするんだな、と思いました。

(副理事長) それでお水はなんとかなりました。それに、たまたまタンク1つ分くらいお水を頂いたんですよ。

(理事長) それ1回だけでした。私も水道局に行った時、給水車が3台くらいいてバケツを持った人が300人くらい並んでいました。給水車も県内じゃなくてよそから来た車でしたね。

――本管からの上水道が回復したのは何日目ぐらいでしたか?
(副理事長) 水は1週間くらいかかりましたね。

(理事長) 地下タンクに入るのがストップしていたんですよ。だから私水道局に行って、今のところは間に合っているけど時間の問題だから対応してくれませんか?、と言ったんです。そのうちに本管も繋いで水がタンクに溜まるようにはしましたが、今度は上の折れたパイプですね。それの直径が150mmだったかな?だけど太いのが無くてとりあえず100mmのパイプを入れ違いにして繋いで応急処置をとって、出るようにしました。そして足場の所のコンクリートを今までよりも頑丈に、大きくしっかりとやり直したんです。

また地震がきた時のためにもキチッとした仕事をしておかないと、と思って、建築士会の支部に相談したんです。そこの方が正式な物を作るとお金がかかるから略図的な物を描いてくれて、それで工事をしたんです。コンクリートをあげるのにもポンプ車とミキサー車と2台並べて大変でした。

(副理事長) 補修工事をやったんですが、お金が1000万以上出ました。ガスだけで600万以上は出ましたから。

(理事長) 11日に地震があって12日にガスがストップしたんです。なので私は13日の朝から毎日ガス会社に行ったんです。でも、ガス会社は空っぽで行っても話しにならない。なので支社長に会って、前に取った見積書の話をだして、それに沿って部材を全部取り寄せてほしい、と頼んだんです。それでパルプだとかパイプだとか東京から至急手配するようにしました。見積書は全部平成21年に作っておいたんです。あれが無いとできませんでした。

それで、18日に部材は揃ったけど工事をする人がいなくて、ガス会社も新潟の方とちょっと打ち合わせてみるからと、打ち合わせてくれました。そしたら、工事業者が全部一揃え背負って20人来たんです。19日から工事始動の準備が始まって、埋設管と、1階の供給管のメーターまでを全部新しくしたんです。25日に屋内部分の工事が始まって、26日に工事が完了しました。

(副理事長) ガスは早かったですよ。26日の夜9時には供給開始したんです。

――電気は止まらなかったんですか?
(副理事長) エレベーターが一基止まっただけで、電気は大丈夫でした。東側のエレベーターは古いからそうでもないんですけど、西側のエレベーターは震度4、5くらいで必ず自動的に止まるんです。

――役に立った備えはありましたか?
(副理事長) 水中ポンプですね。

(理事長) それにガスの図面。それが一式あったし、あとはお金があったということですね。当初こちらで21年に見積もったのが700何万でしたが、実際工事が終わってみたら600何十万でした。

(副理事長) 今回の地震でガスは出ないし水はこの状況で、しかも、下水の詰まりがあったんです。下水はここが平らで勾配が無く、3棟分の流末の配管が一緒だから、日が経ってからあふれ出てきたんです。道路の手前まで流れて広まってしまい、臭いを近隣の方に言われますから、石灰を買ってきて石灰撒きです。

(理事長) 配水管が30何年前の昔のヒューム管なんですよ。これが地盤沈下で割れて中から溢れ出て、臭い!、と苦情が出たんです。設備屋さんが来てポリ塩化ビニールのパイプを入れ直しているんですが、とりあえずの復旧だから、これから全部やり直さないと駄目です。

――マンションの地震後の修繕・復旧としては、水道管、ガス管、下水道管ですか?
(理事長) 大きい所はそうです。その他、細かい所でそれぞれの建物の玄関廻りを直しました。それから、各階のL字型のエキスパンションジョイントですね。地震でずれたし、腐って危ないから外したんです。

(副理事長) 玄関、入り口前の舗装はみんなやられました。曲がったりという状態が何ヶ所かあります。お年寄りの方で車椅子を押す人がいるんですけど、玄関の舗装がちょっと酷くて、段があったりするとスムーズに行かないから、見ていてここは早急に直した方がいいと思って直してもらいました。

――今後の地震対策でこのような備えを追加したい等何かありますか?
(副理事長) これからですね。エレベーターの中に手すりをつける話とか。

(理事長) 発電機は必要ですね。

(副理事長) 今回の地震で通路にある自転車が皆倒れたんですよ。それで、駐輪場を増やそうか?、と言っていたんですが、乗らない自転車を整理して、30台くらい処分しましたね。あとタイヤとか。

――行政にこんなサポートをもう少ししてもらいたかった等何かありますか?
(理事長) ここは建物がガッチリしすぎてるんですよね。

(副理事長) あちら1階東側の建物の方がこちら2棟よりも被害があると思います。でも、検査してもらっても全然何もない。

(理事長) 罹災証明が一部損壊にもあたりません。

(副理事長) だから水道料が少し安くなった程度で、一回で終わりでした。
(ここで女性副理事長退席)

―今回の地震で福島は原発問題がありますが、マンションで放射能関係の事は何かありましたか?
引越した人もいないですし、放射線量の測定は個人で測定器を調達してやっているみたいです。でも、たいした数値はでなかったみたいですね。

――今回の地震を体験されて全国の他のマンションの理事長さんや役員さん達に伝えたい事はありますか?
現在築30年以上経っているマンションが30万棟くらいあると聞いていますが、マンションへの対応・対策、そういう立場の方々は本当に難しいと思うんです。地震の前から私考えていたのですが、例えば市に言いたいのは、このマンションは130室あって市内のある地区の小さい町内会より大きいくらいなんです。その町内を維持管理するには水道維持や道路維持もある、なのにマンションだからと、この敷地の中をどう考えているのか?、ここの居住者に対してはどういう対策をしてくれるのか?、と。町内会とマンションでは対応が全然違うんですよ。一軒家の人は、道路舗装されたり、水道も管理してもらったりしている。その辺の対応を行政はもっと真剣に考えてもいいんじゃないかと思うんです。

私も前に理事長をやっていた時に市役所に行って、マンションでも一部屋集会所的なスペースを作りたいからその時補助金を出してもらえませんか?、と言ったんです。そしたら、ここは○○地区だから○○地区の町内会で補助金を出すんです、と言われて。そうすると、この一部屋をミーティングルームとか色んな集会用に作っても、あくまでも町内会に相談してお金をわけてもらうから、マンション内だけではなくて外部の人もそこを利用するんです、という話でした。東京都でも、町内会の集会所は税金がかからないのに、それよりも規模の大きいマンションの集会室は固定資産税がかかる、なんで無税にしないんだ?、という話がでているようですね。その辺もずいぶん差別があるんじゃないかと思います。

――マンションの本格的な復旧・大規模修繕等の計画はどうなっていますか?
来月末に総会があるんですが、前に作っていただいた修繕計画、それは決議しているんですね。だから、今回の地震の為に見直すというか変えざるをえない。変更については今度の総会で承認を得て、変更の決議というか、今後はこういう形で進めたいという内容の議案を作って、それから動き出すことになると思うんです。

なんというか、理事長なんてやるものじゃないですよ。特に今回のような非常時にはね。ガスをこんな短時間で出したのを、皆その当時は、いやー凄い事だ!、と言っていたのにだんだんそれを忘れてきてますから。

――私もガスの事は凄いと思いました。
守るべき法律は先にあるが、地震のあの時はそっちが先ではなかった。期待可能性という言葉がありますが、もし、親が自分の目の前で子どもに危害を加えられそうな時に、呑気に暴力はいけない、などと言えますか?行動を起こさず黙っていれますか?ガス管を通す時も警察に許可を取らないと駄目という話でしたが、あの状況ではそんな呑気な事を言っていられませんでした。だから私は、警察の許可だ何だなんて事は二の次、それよりも一刻も早くガス管を通す方が先だと思ったんです。震災のあの状況では警察の許可や手続きよりもライフラインの復旧が優先で、居住者の生活、人命の方が大事だと思うんです。普段とは優先事項が違う。結局今になっても当局は動かないし動く気配もありませんから。

――大変貴重なお話をありがとうございました。

(聞き手:鈴木裕人 マンションサポート福島代表・マンション管理士)

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