当サイトは東日本大震災を被災したマンション管理組合関係者(マンション居住者、管理組合理事長・役員、管理会社担当者、管理員、工事担当者、設計事務所、マンション管理士等)の体験談を紹介しています。
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2011/09/11

Y-04 建築士事務所の体験談04(安全と安心)

「安全」と「安心」とについて

1.建築技術者のいう「安全」

・今回の地震では、鉄筋コンクリート造の非耐力壁、いわゆる「雑壁」に、せん断ひび割れなどの著しい被害が見られた。(宮城県仙台市・福島県福島市・郡山市ほか)

・建築技術者、建築士の多くは、「雑壁の被害は、構造耐力上主要な役割を果たしていないため、ひび割れ自体に大きな心配は要らない」「メインフレームの柱・梁・スラブ・耐力壁・基礎等に目立った被害が無ければ、すぐに倒壊するような危険性は低い」旨の説明をすることが多かったように思う(自らも含めて)。


2.居住者・区分所有者の求める安心

・しかし、居住者・区分所有者らの心配は、「目に見えるひび割れに対する恐怖」「AW・SD(アルミサッシ窓・金属製玄関ドア等)の開閉に支障がある」「せん断クラックからすきま風がある」などに起因している様に感じた。

・構造耐力上の「安全」は、すなわちマンションで生活し続ける上での「安全」とはイコールではないこと、さらに居住者らの「安心」は、構造耐力上の「安全」とは、かなり違う位置にあることを実感した。

3.「非耐力壁」について感じていること

・特にRC造の「雑壁」は、構造計算上は耐力壁として働くことを見込んでいないのであろうが、あれだけの枚数の壁に、あれだけのクラック・鉄筋の曲げというエネルギーを吸収しているのだから、メインフレームに対して少しはダンパー的に働いていると思う。

・ちなみに、木造建築物の場合、「耐力壁で負担する地震力は50~70%、非耐力壁で負担する地震力は30~50%」という振動台実験の結果もあるようで、RC・SRC建物でも同じようなことは言えるのではないか。
・よって、今回の地震被害の補修工事の検討にあたっては、限られた時間・予算的な制約の中では」、より慎重を期し「従前の形状に戻す」ことを主にした。

4.建基法の求める水準について

・建築基準法は言わば、建築に関するクリアすべき最低基準である。

・その建築基準法の最低基準と同レベルの「耐震性能等級1」は、「数百年に一度発生する地震(東京では震度6強から震度7程度)の地震力に対して倒壊、崩壊せず、数十年に一度発生する地震(東京では震度5強程度)の地震力に対して損傷しない程度。」とある。

・今回の震度が、(地域係数Zは各地で異なるものの)宮城県仙台市:震度6強、福島県福島市:震度6強、福島県郡山市:震度6強であることを鑑みると、下記「倒壊等防止」の水準は、多くの建物でクリアできていたのではないかと感じた。

(参考)
※損傷防止
数十年に一回は起こりうる(すなわち、一般的な耐用年数の住宅では1度は遭遇する可能性が高い)大きさの力に対しては、大規模な工事が伴う修復を要するほどの著しい損傷が生じないこと。
想定する地震の揺れの強さは、地域により異なりますが、この揺れは、東京を想定した場合、震度5強に相当します。

※倒壊等防止
数百年に一回は起こりうる(すなわち、一般的な耐用年数の住宅では遭遇する可能性は低い)大きさの力に対しては、損傷は受けても、人命が損なわれるような壊れ方をしないこと。
想定する地震の揺れの強さは、地域により異なりますが、この揺れは、東京を想定した場合、震度6強から7程度に相当し、関東大震災時の東京、阪神淡路大震災時の神戸で観測された地震の揺れに相当します。

(続く)

(鈴木裕人 マンションサポート福島代表 マンション管理士・一級建築士)

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